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上智スクール 塾コラム

 夏目漱石『こころ』〜個人面談で

こころ

 高校一年のKさんは、私立の女子高に通っています。先日の個人面談でのこと、「小学校、中学校のときは国語が得意だったのに、最近は国語が苦手になってきた。」と言います。「やっぱり読書不足からでしょうか。」「どんな本を読んだらいいでしょうか。」と、聞かれました。

 そう言えば、二年ほど前に、上智大学の経済学部の国語の試験に、夏目漱石の小説(たしか、『それから』だったか、)が出されていたのを思い出したので、「高校1年生なのだから、夏目漱石なんか一冊でも読んでみたらいいんじゃないかな。」とアドバイスしました。

 個人面談では、よく「うちの子は本を読まなくて…。」とお母様はおっしゃります。私たちの子どもの頃は、娯楽はテレビくらいでしたが、今は昔と違って、パソコンはあるし、テレビゲームはあるし、携帯電話もあるし、読書とはかけ離れた生活です。

 20年、30年前ならば、中学生の読書感想文に夏目漱石≠ニ言っても当たり前でしたが、今どきの中学生にはまず無理です。一番読みやすい『坊ちゃん』でも、最後まで読み通せるのは、どれだけいるでしょうか。

 普段、活字に触れていない子どもたちにとって、文学的な『名作』は、ほとんどは「難しすぎて読めなかった。」ということになります。それで、中学生には、SF小説でもいいし、推理小説でもいいから、まず「面白そうだな。」と思うものなら何でもいいよ、とアドバイスしています。それだけでも、活字に親しむ子とそうでない子では、読解力に大きな違いが生まれるからです。

 高校生の場合はどうでしょうか。
 高校生であれば、やはり古典的な「名作」は読む必要があると思います。それは、面白いからというよりも、教養≠ニして知っておく必要と価値があると思うからです。

 もしもこれまでに一冊も「名作」を読んだことがないというならば、夏目漱石の『こころ』などはどうでしょうか。明治の文豪の作品ですから、時代背景も、人々の心情も、現代とは同じではありませんし、文章は読むのに易しくはないかもしれません。けれども、難しくても、まず一冊、夏目漱石を最後まで読み通したという経験は、貴重な経験となるはずです。

 読書の経験は、長い人生の中で、一生記憶に残り、一生の財産となります。漱石の主題は、人間の善悪といった、人生の根幹に触れる奥深いものがあります。ですから、本当に理解するのは、十代の若者には無理があると思います。まだ若すぎて、人生の経験を積んでいないからです。

 ですから、漱石を読んで「つまらなかった。」と思っても当然ですし、今はそれでもいいと思うのです。漱石の奥の深さを味合うのは、機会さえあれば、もっとずっと先になってからでいいと思うのです。

 しかし、高校生の時代に本を読まなかった人が、大人になってから読めるようになれるでしょうか。大人は仕事に追われ、子育てに追われ、石を積み上げてはまた繰り返すように、日々の生活に追われることになります。

 教養を身につけるには、時間が必要です。若い頃に勉強をしておかなれければならない、という意味はここにあります。読書も、勉強も、やれるときにやった方が良い。後になって、あんなこと無駄だったと思う大人は、たぶん一人もいないと思います。

 余談になりますが、受験生にとっては、漱石は国語の入試問題で五本の指に入るくらい頻出≠ナすので、もしかしたら試験問題に出て、「たまたま読んでおいてラッキーだった。」という思わぬおまけ≠烽ツいてくる…、かも。

執筆(2010-7) 上智スクール講師 渡辺勇治


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